第二章 お洒落とお菓子と戦争と

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(第一章 Old Black Joe)

(第三章 黒紫色のキノコ雲)
(第四章 精霊流し)
(第五章 玉音放送と精霊船)
(第六章 闇市はパラダイス)



【 第二章 】

1945年、夏
長崎県島原市


ふみ香、16歳。
5人兄弟の末っ子で、活発に動く棒のような細長い手足に
真剣な眼差しをしたこの女の子は、
日に日に戦火が激しくなっていく過酷な毎日を、
いかにして面白おかしく過ごすかに命をかけていた。

実の母親は結核でとうの昔に亡くなり、
代わりにやって来た継母とは反りが合わず、毎日がバトル三昧。
頼みの綱の姉二人は、さっさと北京に行ってしまい、
兄は18歳になったと同時に軍隊に入ってしまった。


「ほんなこつ、つまらんと!」 


思春期真っ只中のふみ香が興味のあるもの、
それはお洒落とお菓子だった。


しかし物がどんどん不足していく時代だったので、
毛糸も生地も配給でしか手に入らなかった。
したがってお洒落は自分のセンスと腕にかかっていた。


ふみ香はあちこちから着られなくなった古いセーターを貰って歩き、
それをほどいてセーターやカーディガンを編んだ。
いろんな色を混ぜるしかないという状況は、逆に色合わせの勉強になった。
繋ぎ目を隠すために施した刺繍は、とても素敵なアクセントになった。


配給で手に入れたシフォン生地で、ワンピースを縫った。
襟は自分の大人しい顔立ちに合わせて、小さな丸襟に仕立てた。
身頃に付ける不揃いの小さなボタンは、そのままでは格好悪いので、
違う布でくるんで縦に並べると、ワンピースの可愛らしさを一層引き立てた。


物が無いという逆境は、ふみ香にとっては全て順境となったのだ。



甘い物が大好きだったふみ香にとって、
週に一度のお菓子の配給はとても楽しみだった。

何が配られるかは、その時になってみなければ分からないが、
まだ日が明けないうちから眠い目をこすって並んで手に入れたお菓子は、
なんと素敵で上等に見えたことだろう。

持って帰る手に、嬉しさのあまり力が入り過ぎないよう
優しく抱きかかえるようにして家まで運んだ。


薄く焼いたカステラ生地で餡を巻いてある今で言うロールケーキ風のお菓子
長方形に切ってある、フルフルと震える空色のゼリー


どれもこれもトキメキを覚えずにはいられない素敵なお菓子だった。


しかしその配給は、週に一度が二週間に一度となり、一ヶ月に一度となり
そしていつしか無くなった。



「ああ!いっぺんでよかけん、 お腹いっぱい小城羊羹ば食べたかよ!」


眉山の裾野に寝そべってそう叫んだふみ香は、
あることを思いついて一目散に家まで走った。

配給で割り当てられたザラメで、飴を作ることを思いついたのだ。
俄かにふみ香の目は、キラキラと輝きを帯びてきた。


「飴をしこたま頬張るばい♪」

しかしいかんせん、ザラメの量が少なすぎる。
これでは少量の飴しか作れない。
そうではなくて・・もっとこう、ガツンとくる甘さが欲しい・・


「そうや!」


ふみ香は重曹を入れて膨らませることを思いついた。

まだ砂糖が手に入った頃、
ふみ香は飴会社でアルバイトをしたことがあった。

飴会社だけではない。和菓子会社にもアルバイトに行った。
目的は勿論、余ったものを頂くためだ。
餡を練りながら、こっそり木べらについた餡を舐めることだってできる。

ふみ香にとって、これほど理想的なアルバイトは無かった。


その飴会社で、重曹をほんのひとつまみ入れることによって
甘い匂いの立ち込める飴の原液が何倍にもプワーっと夢のように膨らむことを
ふみ香は学んだのだ。

その飴の名は、カルメ焼きといった。



ふみ香はたまじゃくしにザラメを入れ、火にかけた。
しばらくするとザラメは溶け、ツヤツヤの糖蜜となり、
やがてフツフツと煮えたぎった。

そのタイミングで箸の先にちょこっと重曹を付け、
その箸先を煮えたぎった糖蜜の中に入れて一気にかき混ぜた。

シュワーっという音と共に糖蜜のかさが膨れ上がった。
すかさず冷水にたまじゃくしごと浸した。

膨らんで美味しそうにヒビが入ったカルメ焼きは、
冷めると薄いキャラメル色に落ち着き、
飴というより噛みごたえのあるお菓子のような姿となった。


「やったばい!」

たまじゃくしから外すのに多少苦労はしたものの、
サッカリンではなく本物の砂糖の入ったお菓子を食べる喜びに比べると
そんな苦労など何百回でもできると思った。

たまじゃくしから外したカルメ焼きを木槌で叩き割り、
ふみ香は近所の子供たちに配って歩いた。


「うわー!ふン香ちゃん、これなんね!?」

「よか匂いばいね~!」

子供たちはとても喜び、カルメ焼きのかけらを頬張った。


お乳を飲ませているお母さんにも分けて上げた。

「おばさん、ようけ乳ば出してくれんね」

そう言って、カルメ焼きの大きめのかけらを上げた。


子供たちはふみ香にとてもなついていた。
それはお菓子を分けてくれるからではない。



学校はもはや勉強する場所ではなく、
機銃掃射を受けた時の対応や竹槍の訓練、
そして兵隊さんの傷の手当に使うケシの栽培などをする訓練場になっていた。


待てど暮らせど暮らしが良くならないことから、
だんだん神風が吹くことに疑問を感じ始めたふみ香は
そのような戦争続行に加担するような行為がバカバカしく感じ、
とりわけ先頭に立ってそれを支持する先生が愚か者の筆頭に見え、
学校へは寄りつこうとしなかった。


「あいつら、馬鹿ばい。
 本気であげな大きか国に勝てると思うとると?」


学校へ行かなくなったのは、ふみ香だけではなかった。

同級生たちの多くは長崎市内に働きに出た。
低学年の子供たちは、家で家事の手伝いをして過ごした。


「家にいるんは安心でよかばってん、まだ字も書けんとよ」

お母さんたちはみんな子供の学力を心配した。
このままでは本も読めない。


そんな様子を不憫に思ったふみ香は、子供たちを集めてこう言った。


「よっしゃ。うちが勉強ば教えてやるけん、あんたら心配しなさんな!」


さて、ふみ香学校が創立した。
場所は眉山のふもと。
ここなら体育だって音楽だってできる。


ふみ香先生の授業は実に多彩だった。

国語は読み書きだけでなく、
作文を書かせてみんなの前で発表させた。

「人前で立派にものが言える人間にならんといかん」

そう思っての取り組みだった。

山のてっぺんに登り写生もした。
構図の決め方や絵の具の使い方など
基本から教えた。


体育は、ふみ香が最も力をいれた授業の一つだった。
遊び場が失くなったことにより、
子供たちの脚力や腕力が減ってきていることを
ふみ香は子供たちの様子から見てとったのだ。

いつ空襲警報が鳴り出すかわからない世の中なのに、
こんなことでは逃げ遅れて敵機にやられてしまう。

ふみ香は眉山の緩やかに広がる裾野を使って
年齢や体型別に足腰を鍛えるメニューを考えた。

さすがにこれは、一人では荷が重いため
家を手伝うために島原に残った同級生たちに応援を頼んだ。

体育の手伝いで教える喜びを知った同級生たちは
ふみ香学校の臨時先生として
時々授業に加わるようになった。

音楽は大得意なので、
よく声の通る場所を苦労して探してきて、
そこでみんなで合唱をした。

観客として父兄も呼んだ。


何々大会と名のつくものでは、
みんなの拍手で優勝者を決めたりもした。

そして優勝者に渡すための賞品作りも、ふみ香先生の仕事だった。


「勝ちたい思う気持ちば、育ててやらんと。」


そう思って、ふみ香先生はせっせと夜なべして賞品を作った。


そんなふみ香に、子供たちはとてもよくなついていたのだ。

子供たちのお母さん連中も、


「ふン香ちゃんのおかげで、危なか学校ば行かんでもよかとたい。」


と言って、とても喜んでくれた。

ふみ香は照れくさそうに笑った。
まだあどけなさが残る、少女の顔だった。



しかし、そんな束の間の平和が崩れていく日が近付いていた。

悪夢は黒紫色の巨大な雲を引き連れて
もうすぐそこまで来ていたのだった。


《 続く 》

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ファッションって、けっして洋服という狭い意味の言葉ではなく、考えやこだわりによって生まれる「生き方」までを広く表す、とっても素敵な言葉だと思うの。せっかく女に生まれたんだもの。できるだけファッショナブルに生きたいよね。

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