第五章 玉音放送と精霊船

            2012年 8月15日(火)

            今日は終戦記念日です。

            幾多の苦難を乗り越え、
            このような平和な日本を
            築いてくれてた方々に
            心から感謝の意を表します。

            そして誓います。

            あなた方が
            命をかけて灯してくれた
            この平和の灯が
            けっして絶えぬよう

            今度は私たちが
            命をかけて
            守ってゆくことを。


            ― 黙祷 ―




(第一章 Old Black Joe)
(第二章 お洒落とお菓子と戦争と)
(第三章 黒紫色のキノコ雲)
(第四章 精霊流し)

(第六章 闇市はパラダイス)





【 第五章 】

8月15日、水曜日。

今日は長崎の伝統行事、精霊流しの日だ。

島原では町内ごとに、15日の午後3時から精霊船を作り始め、
夜8時、団長の威勢のいい掛け声と共に船を担ぎ上げ、
まずは広場馬を目指して走り出すのだ。

担ぎ手は村の青年団で、みんな17~8歳の活きのいい青年だ。
海の男らしく日に焼けたたくましい体に、白いふんどしをきりりと締めたその姿は、
全くもって圧巻だった。

広馬場では、町内の精霊船が一斉に顔を合わせる。
その数はおよそ10艘。

それぞれ自分の町内の船を担いだ青年達が、
ここで順番争いの喧嘩をはじめるのだ。

血気盛んな年頃に加え、既にお酒の入っている者もいるので、
喧嘩は激しく、必ず誰かが名誉の負傷をして血を流した。

担がれている精霊船も激しく揺れ、ろうそくの火が灯篭を燃やした。
しばらく競り合った後、各町内の順番が決まり、
今度は一列に並んで有明海を目指すのだった。



島原の精霊船は長崎市の船よりも格段に大きく、
全長は実に10メートル近くもあった。

船の外には各家庭の家紋の入った灯篭がぶら下げられていて、
中にはスイカや桃、きゅうり、だんご、酒、魚などのお供え物が
わんさと積み上げられている。
そのため船の総重量はかなりのものだった。


海に入った青年団は、片方の腕で重い精霊船を担ぎ、
もう片方の腕で上手に水をかいて泳いだ。
そして、そこそこのところまで泳いでいくと、
青年団は一斉に手を離し、船を流した。
見物人たちは、ここでみな手を合わせ、黙祷した。




ふみ香は眉山の裾野に寝そべって空を見上げていた。

「もう、普通の色になったばいね・・」


ふみ香はあの8月9日の空の色を思い出していた。

一瞬にして真っ暗闇になったかと思うと、次第に紫色に変わってきて、
最後は赤になった。
そのうち本物の夜が来て、また真っ暗闇になった。

もしかして、もう二度と青い空は見ることができないかもしれないと、誰もが思った。

しかし、次の日は普通に日が登り、青い空が顔を出した。



「ふみ香よ、わしらこの眉山んおかげで助かったばい。
 眉山から向こうは地獄たい。
 ハゲ山、ハゲ山言うて馬鹿にしとったけど、わしらには神ん山たい。」


長崎市から帰ってきた虎一が、重い口を開けてこう言ったのを
ふみ香は思い出していた。


「眉山サマサマか・・」


けれど、その地獄は誰が作ったのだろう。
ふみ香には、どうしてもそこに人為的な何かがあるように思えてならなかった。



お日様が高い。
もう昼ごはんの時間だ。



「ふみ香!手伝え!」

声をかけたのは村の青年団の一人、勇だった。

「箒草(ほうきぐさ)が足らん。杉ん葉ば取ってきてくれんね」


勇は精霊船の材料を集めるために、山に来たのだった。

材料となるのは竹、藁、箒草、そして杉の葉で、
製作に取り掛かるのは午後3時きっかりと決まっていたが、
材料は前もって集めてもいいことになっていた。


「なんね、いさむちゃんかいね」

ふみ香は渋々と体を起こした。

勇ちゃんには借りがあった。
先日、友達のみよ香と海水浴をしていた時、
みよ香が渦に足を取られ溺れたのだ。

ふみ香の目の前で、あれよあれよと言う間に沈んでいくみよ香。

ふと顔を上げると、防波堤の上に腰掛けている勇の姿が遠くに見えた。


「いさむちゃーん!みよ香が溺れとるーー!!!」


その声を聞きつけた勇ら青年数人は、
海に飛び込み、見事な連携プレーでみよ香を渦から奪還した。
それだけではない。
みよ香の息をふきかえさせたのだ。

そんなわけで、ふみ香には勇に借りがあった。
したがって、逆らわず黙って手伝うことにした。


「虎江はどうしとっとね?」

「知らん」

勇の問いかけに、ふみ香はそっけなく答えた。

特攻隊に志願したという話は聞こえてこなかったものの、
虎江の消息はぷっつり途切れていた。

気分の滅入っている時に、草集めなんぞの手伝いをさせられ、
その上、気になっている虎江の話まで持ち出されたのだ。
ふみ香の機嫌はさらに悪くなった。


勇は「しまったな」、といった顔をした。


「なぁに、特攻隊は、賢いもんやなかったら務まらん。
 わしら漁師にゃ、飛行機ば操縦できんからのう。」


勇は虎江の無事をそう言って仄めかし、ふみ香を力づけようとした。


「それにあいつは男前やけん、
 スマトラあたりでちゃっかり楽しゅう暮らしとるかもしれんよ」


一向に顔を上げないふみ香に、
勇はますます気まずくなり、さらに冗談を交えてこう言った。

しかし、冗談から出た誠とはこのことで、
この時、虎江は本当にスマトラにいて、敵と戦っていたのである。
マラリアという敵と―。


そんなこととは露知らず、
勇はふみ香の機嫌直らないことを気に病みながら、
せっせと杉の葉を集めていた。


「今年は切子灯籠が、ようけぶら下がるとよ。」

勇は言った。


切子灯籠は島原独自のもので、
南蛮の影響が感じられる美しい飾りを施した
全長130cmくらいの長い筒状の灯篭だ。

その年に初盆を迎える仏様のいる家は、
普通の灯篭ではなく、この切子灯籠を精霊船に取り付けるのだ。

長崎から帰ってきた者は、みんな死んだ。
今年は新仏がたくさんいるので、
きっと切子灯篭が
精霊船に所狭しとぶら下がることだろう。


その言葉に、ふみ香は松子のことを思い出した。
今年は松子を送らなければならないのだ。

母親が死んだ年、
ふみ香は精霊流しに参加しなかった。
会う人会う人に、励ましの言葉をかけられるのが嫌だったのだ。

ふみ香は一人、家に閉じこもったまま
誰が呼んでも出てこなかった。

みんながよかれと思ってかけた言葉は、
幼いふみ香の心を容赦なく傷付けたのだ。

そして末っ子の甘えん坊だったふみ香を、
やんちゃくちゃの暴れん坊に変貌させた。


「今となっては感謝しとっとよ。
 おかげでうちは、こげん強くおられるばい。」


しかし、ふみ香はもう16歳。
精霊流しの意味も、鎮魂の意味も、
おぼろげながらわかる年齢になったのだ。



「今年は松子ちゃんを送らんといかんね・・」


ようやく口をきいたふみ香に、勇は安堵し、喜んだ。

「よっしゃー!
 今年は気合ば入れて、よか船ば作るけん、
 ふみ香、見とけよ!」



二人は草を集めて、山を降りた。
精霊船の製作は、なぜか毎年ふみ香の家の前で行われたので、
ふみ香は勇と連れ立って家路に向かった。



家に着くと、ふみ香はヤカンを持って井戸に向かった。

あの日と同じだ。
あの日もこうしてヤカンを持って井戸に水汲みに行った。
おばさんたちと昼飯の話をして、そして・・


ふみ香の目に、黒紫色のキノコ雲の残像が蘇ってきた。


ふみ香はその恐ろしい残像を消すために、懸命にかぶりを振った。
ふみ香には、あの雲が地獄からやってきた化物のように思えたのだ。


「あいつが松子ちゃんたちを連れて行ったとよ」


ふみ香は恐怖を追い払うように、勢いよく水を汲んだ。
その甲斐あって、恐怖は消え、代わりに怒りがこみ上げてきた。


「くそっ! くそっ!」


ふみ香の心は日に日に荒んでいった。

「うちらは何のために我慢したと?
 食いたいもんも食わんと、兵隊さんのために我慢した。
 
 鉄っちゅう鉄は、みな没収された。
 必ず神風が吹くけん、信じて戦え、それが日本人や、いうて教わった。
 
 ほやけど神風ってなんね?
 松子ちゃんはなんで死んだと?
 つや子もとみ香も、浩一も貞広も、なんで死んだとよ?」


ふみ香は、どこに怒りをぶつけたらいいか分からなかった。

今、唯一ぶつけられるものは水とヤカンだ。
水で溢れんばかりになったヤカンを力いっぱい振り上げ、
水しぶきをぶち巻きながら、ふみ香は歩き始めた。

おそらく家につくまでに、ヤカンから水はなくなるだろう。



「おーい、虎一っつぁん! これから吉田さんのとこに行くで!」


ふみ香は家の玄関先で、裏の辰五郎と出くわした。

辰五郎も消防団の一員で、
9日は虎一と一緒に長崎市に応援に行ったのだった。


「おじさん、今度はなんね?」


「おう、ふンかちゃんも行くとよ。
 この辺じゃラジオのあるとこは吉田さんとこだけやけんね。」


そういえば昨日、町内に通達があった。

何やら天皇陛下から直々に大切なお話があるとのことで、
国民は一人残らず玉音(天皇の肉声)を拝するように、との通達だった。

放送は15日の正午ちょうどに始まるので、
その時間に合わせ、みんなラジオのある家に集まることになっていたのだ。


「おう、辰!今から行くか?」

虎一が出てきた。


「おとっつあん、昼飯はどうすっと?」

「帰ってから食えばよか。ほれ、ふン香も行くぞ」


ふみ香と虎一は、
辰五郎に引率されて吉田さんの家に向かった。
ふみ香の家の前で精霊船の材料を持ち寄っていた青年団も、
一緒に行った。

途中また何人かと一緒になり、
着いた頃には大勢になっていた。



吉田さんの家は農家だった。

田植えや野菜の収穫時には、
ふみ香たち15~6歳の子供たちは
毎年泊まりがけで手伝いに行った。

ふみ香はこの仕事をとても楽しみにしていた。
今や幻となった白米だけのご飯を
好きなだけ食べさせてもらえるからだ。

しかもお給金までいただけるとあっちゃ、喜ばない子供はいまい。


しかし、こんな季節外れに吉田さんの家に行くなんて
ふみ香は変な感じがした。


ふみ香たちは広間に通された。
そこは田植え時に子供たちが寝泊りする大部屋だった

広間の真ん中には茶色いラジオが置かれてあった。
みんなはラジオを囲むように、好き好きに腰を下ろした。


ほどなく、放送が始まった。

放送は、最初に日本放送協会のアナウンサーのアナウンスから始まった。
アナウンスでは国民に起立を求め、
続いて君が代の演奏が流された。

そして、これから流される音声が
天皇陛下の肉声であることをアナウンサーが説明した後、
およそ4分あまり、玉音は流された。


「朕深ク世界ノ大勢ト帝國ノ現状トニ鑑ミ
 非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ收拾セムト欲シ
 茲ニ忠良ナル爾臣民ニ告ク」
 
(私は、深く世界の大勢と日本国の現状とを振返り、
 非常の措置をもって時局を収拾しようと思い、
 ここに忠実かつ善良なあなたがた国民に申し伝える。)


天皇のお話は、この言葉から始まった。

天皇は神様だと教えられていたご時世なので、
みな頭を垂れ、身じろぎもせず神妙な面持ちで拝聴した。


それは戦争の終結宣言だった。



玉音が終わるやいなや、
どこからともなく嗚咽が聞こえてきた。

ふみ香は顔を上げた。
見渡すと、年寄り連中を中心に、
おじさんたちが肩を震わせ泣いているのだった。


日本が敵国に負けるなど考えもしなかった世代だ。
大国ロシアを打ち負かし、その勢いで中国を征服した。
そんな押せ押せムードの中に育った世代だ。無理もないだろう。


ふみ香は虎一の顔を見た。
虎一は黙って、正面を向いていた。

勇の顔を見た。
勇は静かにうつむいているだけだった。



みな、なんば思うとっと?
悔しか?悲しか?

うちゃあ、腹立たしか!!!




ふみ香は広間を出て行った。

こんなとこにおっても、今日は白飯の一杯も出やせんたい!


ふみ香はずんずん歩いた。
足を踏みしめ、唇を噛み締め、ずんずん歩いた。

みな、馬鹿ばい。何を泣くと?
そんただ涙あっとやったら、
死んだもんに流しちゃれ!
みな・・みな犬死にたい!



腹が立ってしかたないふみ香は、
その日の昼ごはんに作った味噌汁に
しこたま味噌を放り込んだ。

これでもかというほど、放り込んだ。

戦争がおわったんだ。もう我慢する必要などない。
きっとすぐに白米をお腹いっぱい食べられる日が来る。

今日はお祝いだ!



午後3時になった。
青年団が精霊船を作るために、ふみ香の家の前に集結した。

おじさんたちの顔も見える。

精霊船には設計図などなく、
作った経験のあるおじさんたちが、若いものに口で支持しながら
作らせるのが習わしだった。

ここは島原の浦田。みんな漁師だ。
言葉だけの指示で動けないことには、漁師は務まらない。


「真ん中に竹ば三本渡せ!」

「もうちょっと箒草ば、ようけめに埋め込むったい!」


おじさんが指示する声以外は、ほとんど聞こえてこない。
みな黙々と精霊船を組んでいく。

伝える方も、理解する方も、見事だ。



夜6時過ぎ、精霊船は見事に出来上がった。

みんながぞろぞろと、
玄関先から灯篭を持って集まってきた。

お迎えの時、玄関先にぶら下げてあった灯篭は、
今から精霊船にぶら下げられ、
死者の魂と共に、海に流されるのだ。


「ほう!立派に出来上がったばいねぇ!」


しんみりしたムードはない。
わいわいがやがや、賑やかなお祭りムードだ。

わんさと乗せられた色とりどりのお供え物が、
お祭りムードをいっそう盛り上げた。



家の軒先から一部始終を見物していたふみ香は、
出来上がった精霊船の立派な姿に、
しばし浮世の憂さを忘れていた。

竹と藁と箒草で、あんな立派な船ができるなんて。
おまけに自分が取った緑色の杉の葉が、帆先を美しく飾っている。

なんて素晴らしい!


日は緩やかに沈み、その代わりに灯篭の火が浮きあがって見えた。

そのミカン色の火は、精霊船の美しさをいっそう引き立てた。



さぁ、いよいよ出航の時だ。


「なまいどー!!」の掛け声とともに、 ※なまいど:南無阿弥陀仏
ふんどし姿の青年団たちが、精霊船を担いで威勢よく立ち上がった。


「おーっしゃ~!行くどー!!」


精霊流し

                     (ながさき旅ネットさんからお借りしました)


いざ、精霊船は進みだした。
たくさんの灯篭が揺さぶられて、とても美しい。


見物人たちは精霊船の回りを囲み、ついて走った。
とりわけ子供たちは楽しそうに伴走した。

その中に、ふみ香の姿もあった。


帰ってきた先祖の魂を、みんなでありがたく迎え、
そしてまたあの世へ送り出すという
精霊流しの意味を噛み締めながら、
ふみ香は走った。

揺れる灯篭の暖かい灯は、
まるで新仏となった同級生たちの笑顔のようだった。


「やれー!」

「いけー!!」


広場馬に着くと、よその精霊船との喧嘩が始まった。

罵声が飛ぶ。悲鳴も聞こえる。
精霊流しのボルテージは、今最高潮を迎えているのだった。


「危なかけん、下がっとけ!」
という青年団の声にはお構いなしに、
ふみ香は先頭に立って喧嘩をあおった。

「やれー!負けんなー!!」

手にはどこから持ってきたのか、
太く長い棒きれまで持っている。

今年ばかりは、負けるわけにはいかない。
みんなの魂を乗せたうちらの精霊船を、
どこよりも先に海に入れなければならないんだ!



すごい形相で棒きれを振り回す女の子の迫力に負けたのか、
精霊船の先頭を担いでいる勇が、
勝利の雄叫びを上げた。



「うぉりゃあぁーーー!!行くでぇーーーー!!!」



みんなが歓声を上げ、拍手した。


「さぁ、行くぞ!みんなうちについてこんね!」


いつの間にかふみ香は、見物人の頭となっていた。
見物人たちは、棒きれを天高く掲げたふみ香の後に続いた。
さながらジャンヌ・ダルクである。

さぁ、目指すは有明の海!


海が見えた。
精霊船を担いだまま、青年団は岩場を降り始めた。

見物人たちの大半は、ここでお別れするために足を止めた。


「さぁっ!入るぞー!」

掛け声とともに青年団は入水した。

見守る人たちは、一斉に目を瞑り、手を合わせて黙祷した。


しかし、ふみ香は違った。
棒きれを握ったまま、暗い岩場を降りていく。


「ふン香ちゃん、危なか!やめとかんねー!!」


誰かがふみ香に声をかけた。
しかしふみ香は聞き入れなかった。


「できるだけ、できるだけ、
 うちゃ遠くまで松子ちゃんらを見送るんよ!」


青年団は、精霊船を担いだまま泳ぎだした。
遠くから見ると、
まるで精霊船が勝手に進んでいくように見えた。


ゴツゴツした岩で手足を切りながら、
ふみ香は懸命に船を後を追った。


「松子ちゃん、とみ香ちゃん、つやちゃん、貞広・・」


ふみ香は息を切らせながら、
死んだ同級生たちの名前を呼び続けた。


「みんな痛かったとね、怖かったとね・・
 うちゃ、どうすることもできんかったけん、
 せめて一番遠くまで見送るばい」



しかし、ついに足場は無くなった。
ふみ香はもう、一歩たりとも進めなくなった。



「松子ちゃーーーーん!」


ふみ香は叫んだ。
あらん限りの声を振り絞って、ふみ香は叫んだ。


「松子ちゃーーーんって!!」


返事など、あるはずはなかった。

それでもふみ香は叫び続けた。
叫べば叫ぶほど、
松子の死顔を見た時にできた喉の塊が
スーっと溶けていくように感じられた。


そしてその叫び声は、ほどなく泣き声に変わった。
松子が死んでから、
ふみ香はこの時、初めて泣いた。


やっと松子の死を受け入れることができたのだ。
やっと松子を、見送る決心がついたのだ。


「松子ちゃん、うちゃあもう、ここからは行けん。ごめんよ。
 暗か海は寂しかね?けどすぐ、あの世に着くっとたい。
 あの世には、うちのおっかさんもおるけん、きっと楽しかよ。
 そいでまた来年、帰ってきてな。
 おっかさんと一緒に、帰ってきてな。」


そう言ってふみ香は目を閉じ、手を合わせた。


そしてふみ香は、棒きれを海に投げた。
できるだけ遠くに、力いっぱい放り投げた。

太く長い棒きれは、強い自分の現し身だった。
くじけそうになる心を、勇ましく奮い立たすお守りだった。


「うちゃあ、この棒きれたい。
 強かけん、折れんけん、松子ちゃんを立派に送れるとよ。」


棒きれを握らなければ、
ふみ香は松子を送る気持ちになれなかったのだ。


自分はなんて弱い人間なのだろう。
松子ちゃんは、たった一人で旅立ったいったというのに!

強うならんといかん、
強うならんといかん、

ふみ香は棒きれに自分を重ね合わせ、自分を奮い立たせた。

そしていよいよ、その棒きれと別れる時が来たのだ。


「ここまでうちを引っ張ってきてくれて、ありがとね。」


ふみ香はそう言って、棒きれを海に投げた。


「もう、棒きれなんかいらん。うちゃ、もっともっと強うなるけん。」


ふみ香は来た道を戻った。
真っ暗な岩場は、背筋が凍るほど恐ろしかった。
しかし、ふみ香は黙々とよじ登った。

行きと違って、帰りは岩がもっと固く感じた。
行きは夢中だったために痛みなど感じなかったが、
擦りむいたところがズキズキ疼いた。

「こんなもん、松子ちゃんらのケガに比べたら、なんてことなかばい。
 うちゃあ、強うなるんや。賢うなるんや!」


息を切らせながら岩をよじ登っていたふみ香は、
つと足を止め、後ろを振り向いた。


そこには水平線が広がっていた。

何艘もの精霊船が、
柔らかな優しい灯りをたたえ、
ゆらゆらと遠ざかっていく姿があった。


波一つない、穏やかな、夏の夜の海だった。



「もう二度と泣かん」


ふみ香は、そうつぶやいた。


《 続く 》



                                   


まだ連載の途中ですが(もうすぐ終わります)
ここで一旦、お礼を言わせてください。

読んでくださっているみなさん、本当にありがとうございます!

終戦記念日の今日、
こうしてここで、信頼なるみなさんと一緒に
平和の祈りを捧げることができたこと、
心から感謝致します。


主人公の少女、ふみ香は私の実の母です。
拙い文章ですが、私なりに当時の母に思いを馳せ、
書かせていただいております。

読んでくださっているみなさんも、
きっとふみ香を通して平和とは何か、生きるとはどういうことかを
体感してくださっていることと思います。



原爆の恐ろしさや、
戦時中の悲惨な生活を描いた物語は多々ありますが、
私が書きたいのは、そこではありません。
子供たちに伝えたいことも、そこではありません。

今、生きている自分
当たり前のように呼吸をして、
お腹がすいて、眠くなるという
ごくごく当たり前の「生」を
あらためて感じてもらいたいのです。

好きなだけ夢を描けること、
貪欲に高みを目指せること、
それらを実現するために、
どんな努力でも思う存分にできること

これが真の自由であると
みなさんにふみ香を通して感じてもらいたいのです。

そして、それを子供たちに伝えてください。
言葉ではなく、生き様で伝えてください。

それが私の願いです。


平和の灯は、私たちで守りましょう!
       by おまめ
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Posted at 2012.08.16 (04:59) by () | [編集]
ありがとうございます!体調は元に戻りました。経過も含め2ヶ月近くかかった通院も終わり、夏休みは無理せずのんびり過ごしていますv-22

豪雨で被災された地域の方々、夏場は色々な面において大変なこととお察しいたします。食中毒などもあったようですね…事態が少しでも良くなりますように…お祈り申し上げます。

昨日も終戦記念日でしたので、子どもたちが色々と尋ねてきました。「同じ間違いを繰り返してはいけないよ。人は忘れると同じことを繰り返すからね。」と伝えました。上の子は数年前に見た「ほたるの墓」を思い出して悲しそうな顔をしていました。

学校の図書館にあった、はだしのゲンも何冊かあった分だけ読んでくれたようです。怖い、恐ろしいことが描かれているからこそ読んで欲しい、気分が悪くなって何か「感じて」もらいたいと思うのです。過去の事実は気分が悪いでは済まされなかったのですから…。本を読んで、気分が悪くなった、思い出して夢でうなされた、それでいいと思います。

まず知ること、そして考えること、それが大事ですね。そこから、思いやりをもって過ごしてくれたら。


私も修行半ばの若輩者ですが、子どもたちと一緒に「人」としてまだまだ成長しなくてはいけないと常々思いながら過ごしています。

なんだか真面目に語ってしまいました。
主婦にも、そんな日が1年に何日かはあってもいいでしょうね。

1人1人のお話が、ある人の心にひっかかり平和へとつながっていくと思います。おまめさんのお母様もきっと私たちと同じような、それ以上のお気持ちでお話を続けられたことと思われます。



Posted at 2012.08.16 (09:28) by あかずきん (URL) | [編集]
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Posted at 2012.08.16 (10:52) by () | [編集]
Re: タイトルなし
あかずきんちゃ~ん♪
待ってたよん^^

> 体調は元に戻りました。

それはよかった!!

> 経過も含め2ヶ月近くかかった通院も終わり、

うわー・・大変だったねぇT_T。。

> 夏休みは無理せずのんびり過ごしていますv-22

それがいいよ!大賛成♪
のんびりするのが一番の薬だわ^^

> 豪雨で被災された地域の方々、夏場は色々な面において大変なこととお察しいたします。食中毒などもあったようですね…事態が少しでも良くなりますように…お祈り申し上げます。
>

はい、わたしも同じくです。
市から消毒液などの配布はありましたが、スーパーマーケット自体が水没したので
やはり生ものを買うのは危険だと思います(哀)
水が引いたあとの道路では、
下水から水とともに上がってきたゴキが走り回っておりました(恐怖)

水害のあった地域のみなさーん、
食品は、よーく火を通して食べましょう。

> 昨日も終戦記念日でしたので、子どもたちが色々と尋ねてきました。

まぁ!いい子♪

> 「同じ間違いを繰り返してはいけないよ。人は忘れると同じことを繰り返すからね。」と伝えました。上の子は数年前に見た「ほたるの墓」を思い出して悲しそうな顔をしていました。
>
あぁ、かわいそうに。
子供の悲しそうな顔を見るとひるんでしまう。
話をするのが辛くなるよね・・

> 学校の図書館にあった、はだしのゲンも何冊かあった分だけ読んでくれたようです。

ほんとに偉いお子さんですねー(感動)
さすが赤ずきんちゃん二世!

> 怖い、恐ろしいことが描かれているからこそ読んで欲しい、
> 気分が悪くなって何か「感じて」もらいたいと思うのです。

うんうん

> 過去の事実は気分が悪いでは済まされなかったのですから…。
> 本を読んで、気分が悪くなった、思い出して夢でうなされた、それでいいと思います。

あかん、泣けてきた

> まず知ること、そして考えること、それが大事ですね。そこから、思いやりをもって過ごしてくれたら。

そのとーり!><。

> 私も修行半ばの若輩者ですが、子どもたちと一緒に「人」としてまだまだ成長しなくてはいけないと常々思いながら過ごしています。
>

おお、妹よ!(泣)

> なんだか真面目に語ってしまいました。
> 主婦にも、そんな日が1年に何日かはあってもいいでしょうね。

そうです。その通りです。
一年に一度でいいんです。
自分には生き生きとした血が流れているってことに、
照れずに感動し、感謝する日があればいいんです。

> 1人1人のお話が、ある人の心にひっかかり平和へとつながっていくと思います。
> おまめさんのお母様もきっと私たちと同じような、
> それ以上のお気持ちでお話を続けられたことと思われます。

そうですね。
小さい頃には全然気づかず、ただ楽しく聞いていた話だけれど、
最近は、伝えなければ!という母の強い意思をひしひしと感じるようになりました。
(私も成長したんだわ♪)
Posted at 2012.08.16 (22:46) by ピンクのおまめ (URL) | [編集]
平和願望と現実
おまめさん

こんばんは、空色うさぎです。

お盆中、帰省しておりました。
時期的にテレビや新聞等では盛んに平和の大切さが説かれていました。
が、同時に、竹島、尖閣諸島の問題も起こっているのが現実で、非常な歯がゆさを感じました。

日本人は平和の尊さを分かった上で、日本の平和を守る為には具体的にどういう策をとって行けばよいのかを、もっと真剣に考えなるべきだと思います。
娘にもそう告げました。

おまめさんがおっしゃりたいことは、わかっているつもりですよ^^
Posted at 2012.08.16 (22:54) by 空色うさぎ (URL) | [編集]
Re: 平和願望と現実
空色うさぎさん!お久しぶり~♪

> お盆中、帰省しておりました。

ゆっくりできましたか?^^
おじいちゃまおばあちゃまは喜ばれたことでしょうね

> 時期的にテレビや新聞等では盛んに平和の大切さが説かれていました。
> が、同時に、竹島、尖閣諸島の問題も起こっているのが現実で、非常な歯がゆさを感じました。

うんうん 吠えたいことが山ほどありますーー;

> 日本人は平和の尊さを分かった上で、日本の平和を守る為には具体的にどういう策をとって行けばよいのかを、もっと真剣に考えなるべきだと思います。
> 娘にもそう告げました。

日本の考える優先順位が、そもそもおかしいですね。
・・って、ここで止めておこう^^;

> おまめさんがおっしゃりたいことは、わかっているつもりですよ^^

ありがとうございます、うさぎさん!
はい^^
とーっても信頼しております。
Posted at 2012.08.17 (09:46) by ピンクのおまめ (URL) | [編集]
こんばんは 双子ママンです

大雨の日以来 私のパソコンも黒になるんですよ~~(困)

戦争のお話・・・大学生くらいの年齢までは、日本人としてしっておかなければならない話と思い、自分なりに 本や漫画、ドキュメントビデオ、テレビ、展覧会(無言館)などで 見聞きする機会をつくりました

まだ 幼く、それが自分とは切り離された とおい過去の話のように受け止めていたからだとおもいます

しかし、年齢を重ね、特にこどもをもつと それは とても受け入れがたい 辛いこととして 遠ざけたいような気持になりました。

人間の業(自分の中にも沢山ある)を考えたら、対立紛争戦争がこの世の中から 消え去ることはないと諦めたような気持にもなります

しかし、だからといって しかたがない・・ではなく、戦争にならないように 努力をすることをやめてはいけないと思いますし、それが大切な事なんだと思います

自分の子どもには 「くりかえしてはいけないよ」だけではなく、どのような経緯で、どのような教育があり、どのような 世論があり、軍の中で どのような利権争いがあり、拡大路線につきすすんだのか・・を伝えて、
どこに問題があったのか、それがただ 悪い!だけでなく どのようにできたらよかったのかを 一緒に考えたりする機会を作りたいなと思っています。



 
Posted at 2012.08.17 (19:57) by 双子ママン (URL) | [編集]
Re: タイトルなし
ママンちゃん~

> 大雨の日以来 私のパソコンも黒になるんですよ~~(困)

え!?みぃー☆ちゃんに続いてママンちゃんも!?
おまめさんブログにコメント書き込もうとすると真っ暗になるの!?!?
で、記事は読めるのかしら???

> 戦争のお話・・・
> 大学生くらいの年齢までは、日本人としてしっておかなければならない話と思い、
> 自分なりに 本や漫画、ドキュメントビデオ、テレビ、展覧会(無言館)などで 
> 見聞きする機会をつくりました

若い世代なのに、偉いねー!
ママンちゃんのお母さんは、もう戦争を知らない世代でしょ?

> まだ 幼く、それが自分とは切り離された 
> とおい過去の話のように受け止めていたからだとおもいます

どこかに安心感があった?
>
> しかし、年齢を重ね、特にこどもをもつと 
> それは とても受け入れがたい 辛いこととして 遠ざけたいような気持になりました。

子供のために平和を守りたいという意識が生まれたことの反作用ね。

> 人間の業(自分の中にも沢山ある)を考えたら、対立紛争戦争がこの世の中から 消え去ることはないと諦めたような気持にもなります
>
それは私にもありますよ~
世界のどこかで、今も病気や怪我以外の不必要な理由で死んでいる人がいる。
それをまた、必要な理由で死ぬのだと勘違いしている民族もいる。
人間の業って、深いね。

> しかし、だからといって しかたがない・・ではなく、戦争にならないように 努力をすることをやめてはいけないと思いますし、それが大切な事なんだと思います
>

そうそう。諦めないこと、諦めない姿勢を子供たちに見せることが大切だと思います。

> 自分の子どもには 「くりかえしてはいけないよ」だけではなく、
> どのような経緯で、どのような教育があり、
> どのような 世論があり、軍の中で どのような利権争いがあり、
> 拡大路線につきすすんだのか・・を伝えて、
> どこに問題があったのか、それがただ 悪い!だけでなく 
> どのようにできたらよかったのかを 一緒に考えたりする機会を作りたいなと思っています。
>
素晴らしい!
それこそ、最高の家庭教育です!

ママンちゃんのお子さんは、ママンちゃんのようなお母さんを持てて
本当に幸せだと思います。
子供の基本的価値観は、親が作るのです。
ママンちゃんのお子さんは、きっと物事をいろんな側面から見て判断のできる
賢い女性になりますよ、絶対に。
(ダニエラーになることも間違いなしですね^^)

もうすぐ若いお母さん達の前で話す機会があるので、
ママンちゃんのこの素晴らしい教育論をお話しして
ぜひ参考にしてもらいます^^

Posted at 2012.08.18 (15:36) by ピンクのおまめ (URL) | [編集]
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ファッションって、けっして洋服という狭い意味の言葉ではなく、考えやこだわりによって生まれる「生き方」までを広く表す、とっても素敵な言葉だと思うの。せっかく女に生まれたんだもの。できるだけファッショナブルに生きたいよね。

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